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ヨークシャーテリアのかかりやすい病気とその予防、治療方法【獣医師が執筆】
- 2019年06月27日
- ペットの健康
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ヨークシャーテリアは、つややかな被毛の美しさから「動く宝石」と呼ばれ、その愛らしさから日本でも人気の小型犬です。また、平均寿命は15年前後で、長寿な犬種と言えます。
しかし、ヨークシャーテリアにも純血種ゆえに遺伝性疾患があります。本稿では、ヨークシャーテリアを飼ううえで注意したい遺伝性疾患を始め、かかりやすい病気と治療・予防方法について紹介します。
ヨークシャーテリアのかかりやすい病気の傾向
ヨークシャーテリアは、脳疾患、骨関節疾患、消化器疾患が多いと言われています。また、それらは遺伝的な要因で発生する疾患が少なくありません。
ヨークシャーテリアに好発(発生する度合いが高いこと)する脳疾患としては、水頭症や壊死性髄膜脳炎があり、骨関節疾患としては、環軸亜脱臼や膝蓋骨脱臼、レッグペルテスが見られます。また、消化器疾患として、先天性門脈体循環シャントや急性膵炎が挙げられます。
ヨークシャーテリアのかかりやすい病気の概要と症状
ヨークシャーテリアのかかりやすい脳疾患
水頭症
水頭症の症状は、痙攣(けいれん)発作、てんかん発作などの意識障害、また、歩行異常、眼振などの神経障害が見られます。
壊死性髄膜脳炎
大脳の表面の一部に原因不明の炎症が起こり、その炎症や壊死が、大脳全体や小脳に波及してしまいます。すると、全身性痙攣発作、斜頸(しゃけい:首が左右どちらかに曲がり、反対側に動かない症状のこと)、旋回運動(同じ方向にグルグルと回る行動を繰り返す)などの神経症状が現れます。
ヨークシャーテリアは、病原菌が原因ではない非感染性の脳炎の好発犬種と言われています。
ヨークシャーテリアのかかりやすい骨関節疾患
環軸亜脱臼
環椎(第一頸椎)と軸椎(第二頸椎)のつながりが緩くなっている状態です。症状は、首周りの痛み、四肢の麻痺です。
膝蓋骨脱臼
小型犬は、先天的に膝蓋骨脱臼を起こしやすいと言われおり、ヨークシャーテリアも例外ではありません。症状は、後ろ足の挙上(持ち上げること)、跛行(片足を引いて歩くこと)が見られます。
何度も脱臼を繰り返していると、膝関節で関節炎が起こり、骨の変形や靭帯の損傷につながります。
レッグペルテス(大腿骨頭壊死症)
成長期に股関節に炎症などがあると、大腿骨頭への栄養供給が阻害されて大腿骨頭が壊死してしまうことがあります。症状は、股関節の強い痛みにより患肢(病気を発症した足)を地面に着けなくなります。
ヨークシャーテリアのかかりやすい消化器疾患
先天性門脈体循環シャント
胃や腸などの消化管から吸収された栄養分は、門脈という血管を通って肝臓に運ばれます。肝臓では、タンパク質の合成、糖の貯蓄、毒素の分解などが行われます。
門脈体循環シャントは、門脈と後大静脈をつなぐ短絡路(「シャント」と呼ばれる)の血管ができることによって、さまざまな物質が肝臓を通らなくなり、低血糖や高アンモニア血症が起こります。
門脈体循環シャントは、生まれつきシャント血管が存在する先天性と、肝臓の病気に続発することが多い後天性に分けられますが、ヨークシャーテリアは先天性のものが多いとされています。
症状としては、痙攣発作などの神経症状や、下痢・嘔吐などの消化器症状が起こります。
急性膵炎
膵臓は、脂肪を消化する酵素を分泌する臓器です。膵炎とは、この消化酵素で膵臓自身が消化されてしまい、強い炎症を引き起こすことです。その症状は、嘔吐、下痢、食欲廃絶(まったく食べなくなること)、腹痛などが見られます。また、膵臓周囲の臓器に炎症が波及することがあり、胆管炎や腹膜炎を続発することもあります。
ヨークシャーテリアのかかりやすいそのほかの病気
気管虚脱
呼吸をするたびに気管がつぶれてしまい、ガーガーというアヒルの鳴き声のようなの咳をします。気管は軟骨によって管の形を維持していますが、肥満や老齢など何らかの原因で、この気管軟骨が弱くなると気管虚脱を発症します。
症状は、発咳や呼吸困難で、重度になるとチアノーゼ(血中の酸素が不足して、皮膚や粘膜が青黒くなること)や失神が見られることもあります。
尿石症
膀胱・腎臓・尿管・尿道に結石ができる疾患です。門脈体循環シャントや糖尿病などの基礎疾患があると、結石ができやすいと言われています。結石は各臓器で粘膜に刺激を与え、炎症を引き起こします。
また、尿管や尿道の狭い管腔を通過できずに、尿管閉塞や尿道閉塞を続発することもあります。
結石が形成される部位で症状はさまざまですが、主に血尿、頻尿、排尿障害が見られます。
白内障
特に、ヨークシャーテリアは、2歳以下で発症する遺伝性の若年性白内障が多いとされています。
白内障の症状は、目のレンズ(水晶体)が白く濁り、視力の低下、視覚障害を起こします。また、進行すると失明に至ります。
乾性角結膜炎
いわゆるドライアイのことです。目の表面に流れてくる涙の量が少なくなることで、角膜が損傷してしまいます。症状は目の痛み、充血、目やにが現れます。重症化すると視力障害に至る場合もあります。
ヨークシャーテリアのかかりやすい病気の予防と治療
ヨークシャーテリアのかかりやすい脳疾患の予防と治療方法
水頭症の予防と治療方法
先天的な水頭症に関しては予防方法はありませんが、後天的なものに関しては頭部への外傷を防ぐことが予防になります。
治療は内科的治療と外科的治療に分けられます。内科治療では、脳圧を下げる薬剤や抗てんかん薬を用います。外科治療では、脳脊髄液を抜去します。
壊死性髄膜脳炎の予防と治療方法
遺伝性疾患のため予防方法はありません。また、確立された治療方法はありません。多くの場合、対処療法としてステロイドと抗てんかん薬を併用します。
ヨークシャーテリアのかかりやすい骨関節疾患の予防と治療方法
環軸亜脱臼の予防と治療方法
予防方法は頸部の圧迫を防ぐことで、散歩時のリードを首輪からハーネスに変えるなどがあります。治療は、環軸間の不安定を手術によって取り除きます。
膝蓋骨脱臼の予防と治療方法
予防方法は膝関節に負担をかけないことであり、適正体重の維持、過度な運動を避ける、室内のフローリングですべらないようにマットを敷くなどがあります。
根本的治療は、手術で膝蓋骨が嵌まっている溝を深くしたり、膝蓋骨を引っ張る筋肉の力をリリースしたりします。軽度の場合は、内科的に抗炎症薬を用いて疼痛のコントロールをすることもあります。
レッグペルテス(大腿骨頭壊死症)の予防と治療方法
発症の原因がはっきりせず、残念ながら明確な予防方法はありません。しかし、成長期の小型犬種に多く見られることから、同時期に歩行の異変を感じたら早めに獣医師に相談してください。
治療は、症状が軽度の場合は、鎮痛剤や運動制限などの内科的治療を行います。しかし、進行性のため多くが外科的治療となり、手術によって壊死した大腿骨頭を切除します。術後、疼痛のコントロールを行いつつ、両足で筋肉量に差が出ないようにリハビリを行います。
ヨークシャーテリアのかかりやすい消化器疾患の予防と治療方法
先天性門脈体循環シャントの予防と治療方法
先天性の疾患のため、残念ながら予防方法はありません。
根本的治療は、外科手術によりシャント血管を閉じることが必要です。犬の健康状態や病態によっては、投薬や食事療法などの内科的治療を行い、低血糖やアンモニア血症を抑える措置が取られます。
急性膵炎の予防と治療方法
予防方法は、脂肪分の多い食事を避けることです。
治療は抗菌薬や制吐剤、止瀉薬(ししゃやく:下痢止め薬)を用いつつ、炎症が治まるのを待ちます。
ヨークシャーテリアのかかりやすいそのほかの病気の予防と治療方法
気管虚脱の予防と治療方法
遺伝性に発生するので、予防方法はありません。
治療は、抗菌薬や抗炎症薬を用います。重度の場合は、気管を広げる手術を行うこともあります。
尿石症の予防と治療方法
予防方法は、ミネラル成分を抑えた低リン、低マグネシウムのフードに変更することで結石の発生を抑制します。また、いつでも水分を摂取できる環境にすることも大切です。
食事を変更することで溶ける種類の結石の場合、内科的に食事療法を行います。しかし、溶けない場合は手術によって結石を摘出します。
白内障の予防と治療方法
高コレステロール血症や糖尿病が、白内障発生のリスク要因になりますので、これら疾患の予防が大切です。具体的には、肥満にならないように低脂肪、高繊維のフードを与え食事管理を行うことと、適度な運動を行うことです。
白内障を発症した場合は、点眼薬によって進行を遅らせます。根本的治療としては、手術によって白濁部分を吸引し、眼内レンズを入れます。
乾性角結膜炎の予防と治療方法
予防方法はありませんが、早期発見、早期治療によって症状の悪化を防ぐことにつながります。
治療は角膜を保護するために、人工涙液やヒアルロン酸の点眼を行います。
ヨークシャーテリアのかかりやすい病気とその予防、治療方法のまとめ
ヨークシャーテリアは、遺伝的に発症しやすい病気がいくつかあり、中には治療が難しいものもあります。しかしながら、早期発見によって症状を抑えたり、進行を遅らせたりすることができます。また、手術によって根治できる場合もあります。
もちろん、上記以外の病気にもかからないわけではありません。日ごろから愛犬をよく観察し、異常をすぐに察知できる目を養っていただければと思います。
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