4~6月は狂犬病ワクチン予防接種の時期です。犬を飼う方は、狂犬病ワクチンの接種が義務付けされているため、ご存知でしょうが、なぜそんなに必要なのでしょうか?
今日の日本で、狂犬病の発症は確認されていませんが、狂犬病という病気の恐ろしさと、狂犬病ワクチン予防接種をかかりつけ医で行う必要性について紹介します。
狂犬病とは?
狂犬病は、狂犬病ウイルスを保有する犬、猫、コウモリ、キツネ、馬、牛などを含めるすべての哺乳類に感染します。人も例外ではなく、人が感染するとほぼ100%の確率で死亡します。
かつて、日本でも狂犬病は多くの犬と人が命を落とす恐ろしい病気でした。しかし、1950年、多くの犬や人の犠牲により狂犬病予防法が定められ、その6年後の1956年に狂犬病洗浄国となったのです。
狂犬病になるとどんな症状がでるの?
狂犬病は、狂犬病ウイルスを保有する犬や猫、コウモリ、キツネを含む野生動物に咬まれたり、引っかかれたりしてできた傷口からの侵入、濃厚なウイルスをもつ人同士の気道粘膜の接触により感染します。潜伏期間は約2週間~2か月(人の場合は、約1~2か月)です。
犬の狂犬病の症状は、3つの期間に分けられます。
前駆期
部屋の中を歩き回ったり、徘徊したりします。また、性格がまったく変化してしまうこともあります。具体的には、人に慣れなかった犬が人に対して尻尾を振り友好的になる、人が大好きで人懐っこい犬が、人に対しておびえたような状態になってしまうのです。
このほか、動かない机や石、椅子など、どこにでもある物に噛みついたり、威嚇をしたりします。中には、コンクリートの地面を掘り続けるようなしぐさをする、狼のような遠吠えを何度も繰り返すなど、異常行動が続きます。
また、体調の変化として、発熱や食欲不振が現れます。
狂躁期
過剰な興奮と凶暴性を呈し、異物(糞や小枝、小石など)を食べ始めたり、吠える攻、撃する、目に映る物すべてに噛み付いたりと、まさしく狂犬の状態となります。咬傷事故(咬傷感染)が多発するのがこの時期です。
この狂躁期は、2~4日ほど続いた後、麻痺期に移行します。
麻痺期
運動失調や痙攣、嚥下困難、昏睡などの麻痺症状となり、1~2日で死亡します。
狂犬病に感染するリスクってあるの?
日本では、1956年の国内感染を最後に今日まで狂犬病は発生していません。そのため、獣医師の間では、「狂犬病ワクチンは接種する必要はないのではないか」という声が上がっています。
しかし、日本と並んで狂犬病清浄国と呼ばれる台湾で、2013年に狂犬病が発生してしまいました。野生のイタチアナグマに何らかのかたちで感染、発症し、約3か月で215頭ものイタチアナグマに伝染したのです。
日本と同様に島国である台湾で、どのような経路によって狂犬病が発生したのでしょうか? その原因は、明らかにされていません。しかし、推測では、数年前に船によって持ち込まれた何らかの動物が、2年~3年ほどの潜伏期間を経てスーパースプレッダー(1体で多数の個体に感染させる個体)となり、さまざまな動物に広めたのではないかと考えられています。
日本にも狂犬病が発生するリスクはゼロではない
現在、犬、猫、きつねなどは輸入にあたって、厳しい検疫体制が敷かれています。しかし一方で、ハムスターを始めとする小動物は届け出だけで済むため、こうした哺乳類の小動物によって、日本に狂犬病が持ち込まれてしまう可能性を完全に否定することはできないのです。
愛犬を守るために狂犬病ワクチンを
狂犬病ワクチンの接種は義務ですので、もし狂犬病が日本で発症した場合、狂犬病ワクチンを接種していないことが判明すると殺処分の対象になることもあり得ます。
狂犬病ワクチンを接種するときはかかりつけ医をおすすめする理由
狂犬病の予防接種は、市区町村が実施している集団接種で受けることができます。多くは、地域の公民館や公園などが会場となります。
しかし、狂犬病ワクチンはまれに副作用が出ることがあり、場合によっては、血圧の急激な低下といったアナフィラキシーショックを起こすこともあります。こうした場合、集団接種では十分な準備がなされていないため、その場で対応してもらえないことがあります。
そのため、狂犬病ワクチンは動物病院で接種し、接種後30分は待合室で待機することをお勧めします。動物病院であれば、副作用が出てもすぐに対応してもらえるからです。
狂犬病ワクチンによって引き起こされる可能性のある副作用一覧
・発熱
・食欲低下
・元気消失
・嘔吐
・下痢
・腫れ
・かゆみ
・湿疹
・ムーンフェイス(顔全体や目や口の周りが腫れる)
・呼吸困難
・虚脱
・チアノーゼ(粘膜が青白くなる)
・血圧低下
・痙攣
ムーンフェイス後の副作用が出た時にはすぐに動物病院へ行きましょう。狂犬病ワクチンを接種してから3~4時間後に副作用が出ることもあります。
まとめ
「義務だから狂犬病ワクチンを接種している」という家庭は多いと思います。しかし、狂犬病は、感染すると致死率100%であり、世界では今もなお年間60,000人以上もの人たちが命を落としています。
また、台湾のように、52年以上もの間、狂犬病が発症していなかったにもかかわらず、野生の動物から発生することもあります。これら狂犬病の恐ろしさを忘れずに愛犬を守ってあげましょう。
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