ペット業界の経営者にせまる プレミアムなペット情報サイト

ペットの健康

マンチカンのかかりやすい病気とその予防、治療方法【獣医師が執筆】

マンチカンの特徴と言えば、短い足が真っ先に挙げられるでしょう。短い足で歩く姿はかわいらしく、とても人気があります。

しかし、足は短くても筋肉がしっかりしており、ほかの種類の猫と同等のジャンプ力を発揮できます。本記事では、そんなマンチカンのかかりやすい病気とその予防、治療方法について詳しく紹介します。

マンチカンのかかりやすい病気に対する傾向

マンチカンがかかりやい病気としては、「多発性嚢胞腎」が挙げられます。これはペルシャ系で好発する疾患で、腎臓に多数の「嚢胞」という液がたまった袋ができてしまう病気です。

これまでの研究で、ペルシャと交雑のある長毛種の猫やペルシャ以外の長毛種で遺伝的な背景が証明されています。また、最近では長毛種だけでなく、短毛種でもこの病気が発症することが明らかとなってきています。このような遺伝的な背景が証明されている猫種のひとつがマンチカンです。

マンチカンのかかりやすい病気の概要、症状

マンチカンのかかりやすい病気「多発性嚢胞腎」の概要

多発性嚢胞腎

多発性嚢胞腎は、猫の腎臓の尿細管と呼ばれる部分のポリシスチンというタンパク質の合成に関係のある「PKD1」遺伝子の変異が原因で引き起こされる病気です。そして、マンチカンには、この遺伝的背景をもつ個体がいます。

マンチカンに嚢胞ができててしまう原因については、まだ十分に解明されていない部分がありますが、多数の嚢胞ができてしまう理由としては、ふたつのメカニズムが考えられています。それは、嚢胞の細胞が増えてしまうことと、嚢胞内への嚢胞液分泌が増えてしまうことです。

ポリシスチンというタンパク質は、もともとマンチカンに限らずどの猫にも胎児の腎臓にたくさん存在し、成体の腎臓にはほとんど存在しません。そのため、このポリシスチンが嚢胞細胞の増殖の主な原因ではないかと考えられています。ポリシスチンは、細胞同士がくっ付くときの接着剤の役割をするほか、細胞増殖や細胞同士の情報のやり取りに深く関与していると言われています。

ポリシスチンは、尿が流れる腎臓の尿細管の内側表面に存在し、尿の流れを感知するセンサーとして働きます。また、尿中から細胞内に流れるカルシウムの入口として働くと考えられています。

マンチカンのかかりやすい病気「多発性嚢胞腎」の症状

多発性嚢胞腎という病気によって、マンチカンのポリシスチンの機能が障害され、嚢胞細胞内のカルシウムの量が正常細胞よりも低下します。そして、カルシウムは細胞の中での情報のやり取りに関与しているので、減少すると細胞内から嚢胞内ヘナトリウムがどんどん分泌され、このような異常の持続により嚢胞が次々に形成されます。

この病気が進行すると、次第にマンチカンの腎臓が分泌液で膨らみ、周囲の腎組織を圧迫して腎臓の働きを担っている「ネフロン」が減少することで、腎臓全体の機能が低下します。この症状は慢性腎臓病、または「慢性腎不全」と呼ばれています。

嚢胞形成の進行速度はマンチカンの個体によってさまざまですが、比較的ゆっくりと進行して、嚢胞の数が少なく大きさも小さいうちは目に見える症状はほとんど出ません。

体の中には腎臓が左右1対ありますが、多発性嚢胞腎の多くは両側性に発症します。先に述べたとおり、多発性嚢胞腎は無症状でマンチカンに変わった様子が見られないまま、長期間経過することがあります。ほかの疾患の検査や健康診断で偶然見つかったり、中年齢以降に腎不全で体調が悪くなった際に見つかったりすることが多いのです。

多発性嚢胞腎という病気は進行が遅いので、また、嚢胞が小さく腎機能の低下が現れないうちはマンチカンに治療の必要はありません。しかし、進行した際に生じる慢性的な腎機能の低下に対する治療は必要です。

腎臓は、体内の老廃物を尿とともに体外に排泄するという働きがあります。腎臓は尿中の水分を再吸収することで体内の水分量を調整する働きがありますが、マンチカンが「慢性腎不全」にかかると、この機能が失われるため尿量が増え、また、老廃物が体にたまり、脱水し、飲水量が増えます。さらに、食欲不振、嘔吐、下痢、元気消失といった症状が出ます。重度の慢性腎不全では、マンチカンにけいれんが生じることもあります。

マンチカンのかかりやすい病気の予防、治療

マンチカンのかかりやすい病気「多発性嚢胞腎」の予防、治療

多発性嚢胞腎の予防と治療

マンチカンを始めとする猫に発症する多発性嚢胞腎という病気は、PKD1遺伝子の変異をもっている猫の子供を作らせないことが根本的な解決法です。

しかし、腎臓が障害を受けると、ヒトでは血液透析が一般的ですが、猫ではあまり一般的ではありません。実際にこの病気を発症してしまったマンチカンに対しては、体の負担をできるだけ和らげてあげる対症療法しかできず、残念ながら嚢胞形成を止める根本的な治療方法は存在しません。

多発性嚢胞腎を発症する腎不全により尿量が増え、十分な飲水ができないと脱水症状を引き起こします。そして、脱水により、さらに腎臓に負担がかかり、状況が悪化します。脱水症状が見られる場合は点滴による治療が必要です。この点滴治療には、動物病院で行う静脈内点滴や皮下点滴と自宅でご家族が行うことができる皮下点滴があります。

また、この病気により腎機能が低下したマンチカンには、健常な猫以上に水を飲みやすい環境を作ってあげることが重要です。具体的には複数の水飲み場を設置すること、そして、水の飲み方を制限せず、好きなように飲ませることです。

慢性腎不全の初期の段階で治療を開始すると、病気の進行を遅らせることは可能です。初期の段階での治療としては食餌療法と薬物療法があります。

食餌療法では、マンチカンの腎臓に負担を与えないように、タンパク質などが制限されている専用の療法食を使用します。また、慢性腎不全では高血圧により腎臓に負荷が生じることがあるので、腎臓の保護するためにアンギオテンシン変換酵素阻害剤を使用し、血管を広げ、血圧を下げることがあります。ただし、マンチカンを始めとする猫の多発性嚢胞腎症例で薬物を使用しなければならないほどの高血圧を示すものは少ないとされています。

この病気では、PKD1遺伝子の変異について検出する遺伝子検査で確定診断ができます。そのため、未発症の子猫や繁殖に用いるマンチカンに遺伝子検査を行い、さらに、腎臓に嚢胞をもつ未発症のマンチカンを繁殖に用いないことにより、本疾患の広がりを止めることができると思われます。

マンチカンのかかりやすい病気の予防と治療のまとめ

多発性嚢胞腎はマンチカンに多い病気で、残念ながら根本的な治療法はありません。しかし、進行を遅らせることは可能です。もし、そのような猫ちゃんが身近にいたら、今回紹介した工夫をぜひ実践しましょう。

コメント

この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP